釧路川バイクラフティング #3

前記事「釧路川バイクラフティング#2」からの続き

カヌーポート摩周大橋駅から
開発橋までバイクライド

タープの下で目を覚ます。穏やかな川の音が聞こえる。湖、川、海。水の音が聞こえるキャンプが好きだ。DAY3が始まる。

今日から釧路川の中流域。弟子屈町と標茶町の市街地周辺域を流れる市街地セクションだ。護岸ブロックなど人工構造物が多く、自然味が少ない。事故が多発し航行禁止になっている「サンペコタン禁止区間」もある。そこは自転車でスキップすることにした。

問題はその先、どこまでスキップするかだ。こう言っては何だが中流域はあまり魅力が感じられない。自転車で進みながら考えることにした。

バイクパッキング。
全ての荷物を自転車に積載。

朝食をしっかり摂りキャンプを撤収。全ての荷物を自転車にパッキングした。ううむ。腰高。重心が高い。慣れてしまえばどうってことはなかったが、改善するに越したことはない。

リアラックの両サイドにパニアバッグの様なものを付けて、上に乗せたバックパック内の荷物を分散させたいところ。だがそうすると、今度はそれらをどうやってパックラフトに積もうか。

こうやって遊びの中で必要性を感じるところからモノづくりのアイデアは生まれる(形になるかは別のお話)。

河川敷の道をひた走る。
タンチョウにも遭遇。

腰高重心にもすっかり慣れた頃、釧路川の河川敷を通る道に出た。この道が最高に気持ち良かった。車一台、人っ子ひとりすれ違わなかった。居たのは馬と牛とカラスと…タンチョウ!そう、ついにタンチョウに遭遇した(ページ下部の動画参照)。

初めてタンチョウを見た。美しい。佇まい、所作。とにかく美しい。しかしひとつ疑問が湧いてきた。なぜ奴ら「つがい」ばかりなんだ?調べてみるとそういう習性らしい。さらに言うと、生涯決まった相手と過ごすことが多いそうだ。ふーん。はいそうですか。ふーん。

ちなみにこの道は、湿原らしさが色濃くなる五十石の辺りまで通じている。バイクラフティングには最高に使い勝手の良い道だ。

あまりに気持ちが良いものだから、つい走り過ぎた。航行禁止区間を通り過ぎてもペダルを踏む足が止まらなかった。

パックラフトに乗り換え。
開発橋から茅沼カヌーポートまで。

自転車が気持ち良過ぎて海まで走ってしまいそうだった。さすがにそれはマズい。

川を覗くと川岸は所々護岸され、川底には厄介なコンクリートブロックが顔を出している。気乗りしないがそうも言ってられない。渋々船を出すことにした。

コンクリートブロックが顔を出す
中流域へ出艇

意外にも出艇に適した場所が見付からず、さらに自転車で進んでしまった。磯分内の開発橋の手前辺りからやっと漕ぎ出した。

白波の立つ瀬が幾つか現れる。力強いひと漕ぎで対応したいのだが、パドルが川底にぶつかり思うようにいかない。パックラフトの腹がコンクリートブロックに乗り上げてヒヤッとする場面があったが何とか通過した。

コンクリートブロックが無くなり、落ち着いて漕げるようになった。DCFドライバッグからウィスキーとドライソーセージを出して腹に入れた。iPhoneで音楽を鳴らす。少し機嫌が良くなった。単純である。

標茶の手前。中州で昼食。

腹が減って中州で昼食。ZERODAYの太郎くんと共に行ったユーコン川で、中州で休憩したことを思い出した。キャンプ地で居合わせた別グループの男性がくれたパンケーキを食べたっけ。太郎くんは休憩の度に必ず釣り竿を振っていた。今度釧路川に来るときは釣り竿を持ってこよう。単調な中流域も楽しめるかもしれない。

昼食はパスタ。早茹でパスタを混ぜるだけのソースで食べた。コーヒーも飲んで心身ともにリフレッシュ。

なんということでしょう。ノグトモのティッシュを使い切ってしまった。クッカーを拭くために持っていたキッチンペーパーを細かく裂いてティッシュ代わりにした。厚みがあって案外良かった。ノグレベルが+5上がった。

流れのない川をひたすら漕ぐ。

文調からも察してもらえるだろうか。いまいち気分が盛り上がらなかった。動物の気配は少なく、流れも味気もない直線が続く。

それどころか辺りにはひっきりなしに重機の音が鳴り響いていた。昨今話題のニュースが頭を過る。嫌でも現実に引き戻される。

厚い雲の下、時折降る雨の中を進んだ。せめて陽の光を拝みたい。日光にはそういう力がある。

地図アプリを開く。GPSウォッチで進んだ距離、ペース、現在位置を確認する。仕事のスケジュールが頭を過る。茅沼カヌーポートを今日の「区切り」に設定した。

トレーニングだと思いながらひたすら漕いだ。ゆえに写真がない。日没直前、疲労困憊で茅沼に到着した。

タープを設営して…自転車で温泉へ!

この日の区切りを茅沼にしたのには訳がある。自転車で行ける距離に「ぽん・ぽんゆ」という温泉があるからだ。

パパっとタープを設営。いつでも寝落ちできる状態に整えた後に、自転車で温泉に向かった。

いい風呂だった。缶ビールを2本買って意気揚々とタープに帰宅。風は強いが、雨の気配は去った。暗闇の中、酒を手繰り寄せて寝袋に潜り込む。気風の良い江戸っ子のように雲がせかせかと流れていく。時折、切れ間から月が覗いた。

太古の昔からどれだけの旅人が、荒野の中で月に慰められたであろうか。月は優しい。月は暖かい。

発情期のエゾシカの声を聴きながら眠りについた。

この日の動画

DAY4編に続く。

野田知佑さんの『日本の川を旅する カヌー単独行』から一節を引用して終わりにする。
(一部省略しています)

(釧路湿原内のキャンプ地にて)

こうして釧路湿原の只中に身を置いて、
ひしひしと感じるのは
強烈な野の気配だ。

この沈黙の雄弁さ。

全身に圧力の様なものを感じる。
その猛々しい迫力に圧倒されて、
押し黙ってしまう。

ぼくの実感からいえば、
釧路湿原は急速に消滅しつつある。

湿原をこのまま残せという声も、
「経済的名目」の前には
かき消されてしまう。

我が家には洗濯機がない

夏の始まり頃だっただろうか。洗濯機が壊れた。

以来、洗面台に水を溜めて洗濯をしているのだが無いなら無いでどうにかなるもので、手で洗う、手ですすぐ、手で絞る、という一連の作業にもすっかり慣れた。

ひとつだけ未だに慣れず、洗濯の度に衝撃を受けていることがある。水が黒く濁り、何やら油分まで浮いてくることだ。「オレ、こんな汚い!?」自分が身に付けていたものがこんなにも汚れているとは。毎度毎度、ボケ老人(失礼)のように初見の衝撃を喰らっている。

アウトドアで着用した衣服ならともかく、外界に触れていない下着や肌着だけでもあのドス黒い濁り様。生きてるだけでダークサイドかよ。暗黒成分出てる?

いや、きっと僕だけではない。タイムラインに現れる綺麗なあの人も、街で見かけた可愛いあの子も、手洗いをすりゃドス黒いんだ。人類みなドス黒い説。

洗濯機が壊れなかったら気付かなかった。

コーヒーミルもそうだ(突然)。僕は手で回す人力コーヒーミルを使っている。仕事が忙しい時なんかは挽き終わるまでが永遠のように感じる。最近では仕事が忙しくなくても感じる。加齢によりせっかちになっているのだろう(やかましいわ)。

そんなこともあり、長いこと電動ミルに憧れ続けてきた。

だが最近、あることに気がついて手動ミルの良さを再評価したところだ。豆が変わればミルを回した時の手応えも大きく変わることに気付き(遅くない?)そこに面白さを感じ始めたのだ。カリカリと小気味よく割れるもの。なんだか粘りの強いもの。固くて力の必要なもの。

手応えの違いによる味や風味の違いについては語る言葉を持ち合わせていないので控えるが、同じお店の同じ豆でもミルから感じる手応えが違う。機械に任せていては気付かなかったことだ。

さてと。とっ散らかった話をなんとか真面目な方面に着陸させたい。

効率を求めることで失うものは多いのではないだろうか。生身で接していたら感じられたことを見落としてはいないだろうか。そして恐ろしいのは、それらは失ったまま二度と取り戻せなくなるかもしれないということだ。

そこに目を向けるのが僕のライフワークであり「しないではいられないこと」なのだろう。動物から人間になった僕らが20万年紡いできたものの中に、現代に生きる人々がより良く生きるためのエッセンスがあると思っている。そうあって欲しい。

とは言え、

やっぱりちょっと洗濯機は欲しい。

釧路川バイクラフティング #2

前記事「釧路川バイクラフティング#1」からの続き

和琴半島公共駐車場から
コタンまでバイクライド

釧路川は屈斜路湖から流れ出ている。出来るだけ流れ出しに近い場所からスタートをしたい。というのも、パックラフトはずんぐりむっくりの形状をしているので、流れのない静水で水を切って進むには不向きだからだ。

漕いで漕げないわけじゃないが、こっちには自転車がある。同じ漕ぐならここはチャリだ。この自由さがバイクラフティングの魅力だ。

車を停める和琴半島から釧路川の流れ出し場所である眺湖橋まで、湖上でパックラフトを漕ぐのではなく気持ちよく自転車を走らせることにした。

眺湖橋に程近いコタンの湖畔にパックラフトや旅の装備をデポ。和琴半島公共駐車場に車を停め、再び自転車でコタンへ。

コタンからカヌーポート摩周大橋駅まで
パックラフティング

今回の旅ではほとんど計画を立てなかった。初めての川なので見当がつかないというのもあるが、なによりも時間や目的地に縛られたくないからだ。目の前の自然を心行くまで堪能したい。暗くなればそこで寝ればいい。それだけの話だ。

とは言え現実はそうも言ってられなかった。日本の釧路川という環境(キャンプ不可の場所が多い)や仕事のスケジュールが野放図な自由を許してくれないのだ。

結果、僕の旅はGPSウォッチでペースや距離、現在位置を逐一確認しながら進むことになる。不本意であるが仕方がない。

映画『イージーライダー』の冒頭、いざ旅が始まるという瞬間、ハーレーに跨った主人公が腕時計を外して投げ棄てるシーンがある。

果たして僕はこのGPSウォッチを投げ棄てられる日が来るのだろうか。

(ガーミン棄てれるわけねー)

パックラフトでの川旅スタート

装備を整えて湖にパックラフトを浮かべる。愛車SURLYブリッジクラブとバックパックを積んだパックラフト。旅を終えた時には全てが泥だらけだったことを思うと、この写真はピカピカでなんだか気恥ずかしい。

重い荷物を積んだ船の腹が湖底につかえる。パドルを砂利に突き刺して押しながら出艇した。

眺湖橋に近付くと船が吸い寄せられていく。その力は近付くほどに強くなる。屈斜路湖の水が釧路川に流れ出していることを体で実感する。

栓を抜いた湯船に浮かんでいる気分だ。あれよあれよという間に屈斜路湖から吐き出されてしまった。幸いなことに行き先は下水道ではない。長年思い描いた釧路川の源流だ。

釧路川源流の様子

残念なことに、源流に入った序盤の写真や動画が残っていない。それくらい気持ちが昂っていたし、肩に力が入っていたのだろう。

これから下る人のためにも、朧気な記憶を掘り起こして振り返ってみる。

川幅は狭く、両脇からはよく茂った木が張り出している。さながら緑のトンネルだ。水上水中に倒木が多いため、狭い隙間を縫うように漕ぎ抜けなければならない。

細かいS字カーブが続き、曲がった先に障害物が現れるので気が抜けない。

幸い流速は速くはないので、流れに逆らって漕ぐことでその場に静止することは出来る。パックラフトの操船に慣れた者なら問題はないだろう。

パックラフトでなければ
無理だった説

だが、小回りの利くパックラフトならばの話で、これがカナディアンカヌーやファルトボートだとそれなりに技術を身に着けた人でなければ難しいのではないだろうか。所有しているフジタカヌーのアルピナ2(全長4.6m)だと正直、自分は気乗りしない。

現地のガイドによると、以前よりも倒木が増えているようだ。

一度落ち着きたくて岸に上がった。腰を下ろして辺りの植生や動物の気配に気を配る。

眼前を流れるだけだった風景の解像度が上がり、手触りと温もりのあるものに変わってゆく。

繋がり、リズムが合い始める。やっと釧路川を感じられた心地がした。

いつもの味で平常心を取り戻す。より下流の湿原域に入ると自然保護の観点から川岸への上陸が禁止されているので、こんな風にのんびり休憩できたのは源流域までだった。

弟子屈市街に近付くにつれて倒木が減り漕ぎやすくなる。息をつく余裕が出てビールを飲んだ。小心者の僕は少しアルコールが入った方が楽しめるようだ。

この後、瀬が2カ所ほどあった気がする。この身一つならば転覆してもなんてことないのだが、お気に入りの自転車を積んでいると緊張感が比じゃない。

ビビり散らかしてインスタ360もしまい込んでしまった。今後はきちんと動画に残そうかと思う。

カヌーポート摩周大橋駅に到着

所用時間4時間半。移動距離19km。カヌーポート摩周大橋駅に到着。夕方近くだったこともあり、ここを本日の終点とした。

程よい疲れと達成感。源流域が懸案のセクションだったのでほっと胸を撫で下ろす。

終わってみればなんてことなかったのだが、この台詞は自分の中でご法度にしている。自然は常に姿を変えているからだ。毎回、初めましての気持ちで接しなければならない。

「今回はたまたま上手くいった」と思うようにしている。再訪に備えて、過信は川に流した。

今回のタープシェルター

船から降り、地に足を付けてタープシェルターを張る。身体に沁み込んだいつもの動き。パックラフトもこれくらいナチュラルに操船できれば良いのだが。

今回の旅ではDaytrip Tarpを選んだ。パックラフトに積む都合でバックパックのサイズは35L。5日分の荷物を詰めるとなると収納サイズがコンパクトなDaytrip Tarpが嬉しい。本当に良いタープだ。

衣類や寝具を水から守りながら圧縮してコンパクトにしてくれるDCFドライコンプバッグもこういうタイトな冒険で頼りになる。

自分で言うのも変だが、僕のためにある様な道具だ笑

いそいそと自転車を組み立て

翌日以降は中流域の市街地セクション。そこをスキップして自転車移動することに決めた。

あと、町の風呂に出掛けたいし、居酒屋でビールが飲みたい!というわけでいそいそと自転車を組み立てた。

翌日のバイクパッキングに備えパックラフトを畳んだ。

自転車に乗って町へ

パックラフトを漕いだ後に、自転車に乗る気持ち良さたるや!アレは一体なんなのだろうか。

パックラフトとは使う筋肉が違うのでぐんぐん踏める。まだまだ動ける。疾走感。絶対感。無敵モード。

浮かれポンチになりながら町に出て、風呂→居酒屋の最強コンボを決めた。

別に歩いて行けない距離ではない。でも僕は自転車に乗るのが好きなんだ。

タープの下、寝袋の中からの眺め。

自転車を積んできてよかった。パックラフトを始めて良かった。ふたつを掛け合わせたバイクラフティングとその自由さは、やはり僕にはぴったりだ。

長年の憧れだった釧路川の源流域をバイクラフティングで下った。100点満点どころじゃない。1000点だ。

翌日以降の地図を眺めながら眠りについた。

この日の動画

DAY3編に続く

野田知佑さんの『日本の川を旅する カヌー単独行』から大好きな一節を引用して終わりにする。
(カッコいい感じで終われるから味を占めた笑)

(荒れた川を前にして)
「ここは真ん中を突破しよう。

一度逃げると、次からはいつも逃げる癖がつく。
頑張れ。俺の通るコースをぴったりついてくれば間違いない。

波や流れの音に気圧されると体が動かなくなるからね。

声を出せ。何でもいい。大声で怒鳴って漕ぐんだ。

『編集部のバカヤロー』でもいいし『モモエチャーン』でもいい」